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気まぐれにNL・BLetc.健全から危ないモノまで。 今のとこメインはDMCとTOA。
2025年05月17日 (Sat)
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2007年07月25日 (Wed)
※一部濡れ場があるのでご注意


夜のタタル渓谷は静かだ。魔物の大半は眠ってしまっているし、チーグルも眠っているようだ。ルークはその薄暗い夜道を歩いていく。タンタンとリズミカルな足音は水の音に掻き消されるくらい小さな物だ。

「ライガクィーン」

巣穴のような木の根の下で眠っているライガクィーンにルークは呼び掛けた。ぴくりとライガクィーンの耳が動く。

「こんな遅くにすみません、グレースです」

ライガクィーンは目を覚ましたのか、向くりと起き上がってルークを見た。

「少しお願いがありまして、私が明日の昼また来たら倒されたふりしてキノコロードの奥に隠れて下さいませんか?」

ライガクィーンはきょとんと首を傾げる。

「このままではいずれ討伐隊が来るでしょう。私は貴女に死んで欲しく無いんです。それにキノコロードの奥でしたら食事には困りませんし」

ルークはそこまで言って、ライガクィーンに近寄る。

「アリエッタの妹や弟、早くかえるといいですね」

ライガクィーンはルークにほお擦りをした。どうやら了承してくれたらしい。

「明日、私違う姿で来ますけど大丈夫ですか?」

するとライガクィーンはぴすぴすと鼻を鳴らした。臭いでわかると言っているらしい。

「では、おやすみなさい」

ルークは最後にぎゅっと抱きしめてライガクィーンの元を去った。

……………………………………………………

「っあ…は…アッシュぅ…俺もぉ宿戻んなきゃ…ティアに抜け出したのばれちゃうっ」
「そう言いながらこんなに締め付けて離さねぇのはお前だろうが」
「ひぅ…もぉおっきくしちゃ、やぁ…あぁ---っ」

びくんと身体を痙攣させてルークは達した。追うようにアッシュも達する。ここはチーグルの森の入って直ぐの場所で、いつ人が来るか解らないような所だ。

「ルーク…」
「ん…アッシュ、抜ぃて」
「無理させたな…」
「いぃよ…アッシュだもん」

ルークは苦笑しながらアッシュをズルリと引き抜く。ぼたぼたと秘部からアッシュの放った白濁が零れる。卑猥な光景にアッシュは眩暈がした。

「ルー…「グレース」」

言い直させるルークにアッシュは苦笑して回線でルークの名を呼んだ。直ぐに回線で「なぁに?」と返ってくる。

『愛してる、ルーク』
「っ//////」
「お前は?」
「あ…あぃして…ます…アッシュ//////」

真っ赤になりながらルークはアッシュに告げると、アッシュは満足したようでルークに口付けた。

『もう行くね?またねアッシュ』
『あぁ』

ルークは顔を真っ赤にしながらパタパタとエンゲーブの方へ走って行った。ルークが宿に戻るとティアは眠っていた。音も気配も消して浴場へと向かう。宿屋の主人は家に帰っているようでフロントには誰もいなかった。湯で情交の跡を流してしまってルークは布団に潜り込む。目をつぶれば夢が見れた。愛しい恋人の夢。

……………………………………………………

翌朝ルークは謎の重みで目が覚めた。横を見るとミルクティー色の髪が広がっている。

「!?」
「…おはよう」
「ティアなんで同じ布団で!?」
「?貴方が寝ぼけて引きずり込んだんじゃない」
「そっか、悪かったな」

ルークはするりとベットから抜けだすと数回伸びをした。パキリと骨のなる音がする。

「よっし、チーグルの森行くか!」
「えっ?」
「犯人突き出してやろうぜ」

ルークはティアの手を引いてチーグルの森へと向かう。ティアは真っ赤だった。

「あれ、イオンじゃないか!?」

チーグルの森の入口で、魔物に囲まれているイオンを見つけ二人は焦る。

「まずい、イオン!ダアト式譜術使うなっ!!」
「えっ」
「ルーク!?」

叫んだルークは既に駆け出していた。地を蹴って跳躍、そのまま凪ぐように一閃。イオンを抱えてバックステップ。まるで踊るかのような一連の動作。それはヴァンの使う剣術とは似ても似つかない。

「ティア、イオン頼むな」
「ルーク!」
「凍っちまえ!守護氷槍陣っ」

パキンと氷の砕ける音と共に、魔物は消え去っていた。ルークの横顔に表情は全く見受けられない。ティアはぞっとした。ルークの目は軍人のそれだった。

「大丈夫か!?イオン」
「えぇ、僕は。ありがとうございます、ルーク」
「チーグル探しに来たんだろ?一緒に行こうぜ」

ルークはひょいとイオンを横抱きにして、すたすたと進む。ティアは溜息を吐いて、ルークの後を追う。

「何故、僕がチーグルを探しに来たと解ったんですか?」
「昨日の今日だしな」
「そうですか…」

ルークはイオンを下ろして笑う。昨日の事はもう怒っていないらしく、イオンはほっとした。

「きちんと挨拶してなかったな。俺はルークでこっちが〈モース大詠士指揮下情報部第一小隊所属のティア・グランツ響長〉ヴァン師匠の妹だ」
「私、ルークに話したかしら?」
「カンタビレに聞いたんだよ。ヴァン師匠には妹がいるんだーって」

思わぬ名前が出てきてティアとイオンは驚いた。

「カンタビレと知り合いなんですか?」
「俺が掠われた時、見つけて貰ってからずっと友達だ」

ルークはにっこり笑う。そこにひょこひょことチーグルの仔供が歩いて来た。

「いた!イオン追っ掛けるぞ」
「あ、はい!」

逃げるチーグルの仔供をルークは音を立てて追う。理由は明確。逃げていく場所を知っているから。暫く追っているとチーグルを見失ってしまった。

「逃げられちまった…」
「そうですね」

イオンとティアは小走りに戻ってきたルークを見て不思議に思う。あれだけ動いているのに汗一つかいていない。息を切らしている様子もなかった。

「あ、そうだイオン。これやるよ」
「この譜石、どうしたんです?」

ルークがイオンに手渡したのは透き通ったように見える譜石。

「イオンにあげたかったから」

ルークは笑ってイオンに言う。イオンはそっと口にせず譜石を詠んで目を見開いた。

「ルーク、これを何処で?」
「                 」
「ティア!?」

ルークが何か呟くと、ティアがふらりとよろけてしまった。

「大丈夫です、導師。少し眩暈がしただけですから」
「少し休むか?別にそんなに急いで帰る気はねぇし」
「いいの?」
「せっかく外に出れたんだ。暫く旅すんのも悪くねぇし、ヴァン師匠にスカートはかされそうになる心配もねぇ」

その場の空気が固まった。ティアは涙を流して兄さんと呟くし、イオンはイオンで微妙な表情だ。グレースの軍服がスカートなのを思い出したのだろう。

「泣くなよ…ヴァン師匠がスカート履いてるよりましだろー?」

それはそれで嫌だ。というか、かなり嫌だ。確実にキモい。

「あ、チーグル」

ティアが微妙に泣き崩れるなかルークの視線の先はさっきとは違うチーグルの仔供だった。こちらに気付くと一目散に逃げていく。三人はそれを追った。暫く行くと林檎が転がっていた。エンゲーブの焼き印が押されたそれをルークは拾い上げる。

「獣の気配がするわ」
「行きましょう、何故彼等がこんな事をするのか知りたい」

イオンが木の中に入っていってしまったのでルークとティアもそれに続く事にした。

Next→ライガクィーン戦
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2007年07月12日 (Thu)
トゥエ レイ ズェ クロア リュオ トゥエ ズェ

「ようやく見つけた、裏切り者ヴァンデスデルカ」

柔らかな歌声と共に現れた少女にルークは心を踊らせた。

「やはりお前か!ティア!」

ヴァンの叫ぶ声がする。ヴァンにとって彼女の登場は本当に予想外だったのだろう。ルークは心の中で少し笑って謝った。巻き込んでごめんねと。

「なんなんだよ、お前はぁーっ!」
「いかん、ティア、ルーク!」
「これは第七音素!?」

キーンという耳鳴り。ルークはローレライの力を感じた。意識が消える。次に目覚めるのはきっとタタル渓谷だ。

……………………………………………………

「ルーク、ルーク起きて」

ルークはティアに呼ばれ目を覚ました。夜の渓谷はセレニアの花が咲き誇っていて綺麗だ。

「大丈夫?怪我はない?」
「大丈夫だ、ここは?」
「ごめんなさい、わからないの」
「ティアのせいじゃないよ」

ルークは微笑んで言うが、ティアはびっくりしたようだ。

「なんで私の名前…」
「師匠が叫んでたし…」
「あぁ…それで」

ティアは納得したようで、ルークに手を貸して立ち上がらせる。

「っと、ありがとうティア」
「どう…いたしまして」

笑うルークにティアの顔は真っ赤だ。可愛いなぁ、初々しくてとルークはますます笑う。

「海沿いに行ったらバチカル帰れるかな?」
「そうね…でも方角も解らないし」
「大丈夫、なんとかなるよ」

ルークはティアにそう声をかけて水の音のする方へ歩く。

「!ティア、魔物がくる」
「えぇ」

ルークはさっとティアを庇って、猪のような魔物を凪ぐように切る。それはとても鮮やかだった。

「強いのね…」
「違ぇよ、俺は強くなんかない。ティアの方がよっぽど強いよ」

ルークは苦笑しながらいう。

「でも、強いわ」
「ありがとう、さーさくさく行くぞ!」
「えぇ」

川を下ると馬を休めている男にあった。

「首都まで乗せていってくれませんか?」

ティアが申し出ると男は料金は前払いだと言う。

「じゃあこ…」
「これじゃだめか?」

ひゅんと男にペーパーナイフが投げられる。きちんと鞘におさまったそれは見るだけで上物だと知れた。

「これなら」

男はペーパーナイフを懐にしまうと二人を馬車に案内した。

「ルーク、なんでペーパーナイフなんて持っていたの?」
「さぁ?着替えた時に紛れたんじゃねぇの?夜も遅ぇし寝ようぜ」
「そうね…おやすみなさい」

寝息をたてはじめたティアを見ながらルークは笑みを浮かべた。

「ティアのお母さんの形見だもんな、売る訳にはいかねぇよ」

ルークは自分も眠ろうと大きく一つ息を吐くと、目をつぶった。

……………………………………………………

「んー…よく寝た」

馬車の中でルークは大きく伸びをした。ティアはとっくに目を覚ましていたらしく窓の外を見ている。

《そこの辻馬車、道を開けなさい。巻き込まれますよ》

聞き覚えある声にルークは窓の外を見る。真っ白なタルタロスが馬車を追っているところだった。

「あれ、マルクト軍だよな」
「え?ここはキムラスカじゃないの!?」

ルークはのほほんとタルタロスを見ている。あまり必死性は感じられない。

「あ、橋落とされた。キムラスカ行けねぇな…おじさんここで下ろして、エンゲーブまで歩くから」

ルークは辻馬車の男にそう告げ、さっさとおりてしまう。

「ルーク、貴方あそこが何処か知っていたのね?」
「キムラスカにああいう渓谷ないしな。多分タタル渓谷だろうなとは思ってた。それに俺、屋敷に軟禁されてたから外の事あまり知らねぇし」

ルークはやる気なさそうに答える。しかし出てくる魔物は一発で仕留めたりして微妙にガルドは貯まりつつあったりする。

「ルーク、なんでそんなに戦い慣れているの?」
「んー?なんでだろ?体が勝手に動くんだよなー、よっと」

うねうねした魔物の攻撃を避けてルークはそれに剣を突き立てた。

「師匠との修業の成果かな?」
「…………」

ティアはじとりとルークを見たがエンゲーブが見えてきたので、口論を止めた。

……………………………………………………

「……………」
「…あぁ、さっき、陸艦で辻馬車追い掛けてたのにも関わらず間抜けにも逃げられた、ジェイド・カーティス大佐ね」

盗っ人とわざと間違えられたルークはローズ邸にいるジェイドと出会うができた。しばらく、ジェイドは押し黙った。

「貴方は?」
「ルークだ、こっちはティア。言っとくが漆黒の翼じゃねぇからな?漆黒の翼はあんたが取り逃がしてたろ?」
「先程の辻馬車に乗っていたんですか」

ジェイドは苦笑した。まるで、信託の盾の口の悪いあの少年のようだ。紅い髪の導師守護役。

「あぁ」
「その方は犯人ではありませんよ」
「イオ…」
「イオン!すっげー久しぶり覚えてるか?」

入ってきたイオンにルークは抱き着いた。ティアは思わず可愛いと口にしかけて、手で押さえた。男に可愛いは駄目だと以前ヴァンに言われたからだ。

「貴方は…」
「まぁ覚えて無いかもな、お前がうち来たの6年も前だし」

ルークは腕の中のイオンを放してイオンの手の中のものをみる。白い綿毛のようなそれは、獣の毛だ。

「あれ?チーグルの毛じゃん、イオン何処で拾って来たんだ?」
「あぁ、倉庫に落ちていました。結構な量が有りましたからチーグルが犯人でしょうね」
「ほらー、俺達無実じゃねーかよ!」
「すまなかったな」
「別に」

ルークは興味を無くしたのか、てくてくとローズ邸を出ていく。

「あの、貴方は…」
「聖なる焔の光、じゃあなイオン」

そう言い残してルークは扉を締めた。どうやら少し怒っているようだ。無理もない。知り合いに忘れられていたのなら。

「ルーク…ですか…」
「ジェイド」
「なんですか?イオン様」
「…いえなんでもありません」

イオンは安心させるように笑うと、ローズに倉庫の件について話し出した。

……………………………………………………

「パスタのレシピ」を手に入れました。とどっからともなく声が聞こえた気がしてルークは溜息を吐いた。

「どうしたの?ルーク」
「なんでもねぇよ、それよりもう宿戻んねぇ?疲れたし」
「そうね、食材も手に入ったし、今日は休みましょう」

ティアがルークの言葉に賛成して宿に戻るとツインテールの少女が宿屋の主人に話しを聞いているところだった。

「はぅー…イオン様どこいっちゃったんだろ」
「イオンならローズって人ん家だぜ、ジェイドも一緒に居るから」
「あ、本当ですか?ありがとうございます」
「アニス、トクナガ落としましたよ」
「へ…ありがとうございます。グレースさ…ってあれ?いない空耳かなぁ」

首を傾げてトクナガを拾い宿を出ていくアニスをルークはくすくす笑いながら見ている。ティアは呆れたように溜息をついた。

「ルーク…貴方最低ね」
「褒め言葉として受け取っとく」
「………」

そんなルークに絶句したティアは貴族ってみんなこんななのかしらと首を傾げた。

Next→チーグルの森

〈その後の宿で〉

「ルーク…なんでマニキュアなんて塗っているの?」
「爪が割れちまったからな。濃い色塗ればわかんねぇだろ?」

確かにその通りだが、何で黒なのだろうか。と思っているうちに左の薬指にだけ紅い模様が浮き出て来た。

「?」
「黒塗るとこの指だけこうなるんだ」
「不思議ね」
「だよなー」

そう言いつつルークは日記を広げる。古代イスパニア語の列ぶ日記にティアは首を傾げた。

「何故フォニック語で書かないの?」
「勉強の一環。使ってねぇと忘れるし」
「勤勉なのね」
「俺より勤勉なのなんて沢山いるだろ?それに綺麗だろ古代語は」
「そうね、貴方の名前みたいにね」

ティアは素で言ったのだろうがルークは思わず真っ赤になってしまった。

「も、もう寝ろよ!俺も日記書いたら寝るから」
「そうさせてもらうわ、おやすみなさい」
「おやすみ」

ルークは明かりを絞って日記を書く。日記というより小説のようなそれはまだ新しい。たまたま飛ばされる前の日に使い切ってしまったのだ。ルークの日記は二つ。一つは逆行前のものだ。

「行かなきゃな」

ルークはそういってこっそり窓から出て行った。
2007年06月29日 (Fri)
また退屈な一日が始まった。と日記に書き記しながらルークは苦笑した。庭はペールのお陰で凄く美しいし、朝日が部屋にさしてきてキラキラして綺麗だ。ただ、少しだけ腰が痛い。自業自得だが。ルークが起きるにはまだ早い時間だ。でもルークの目は既に冴えている。

「ルーク?」
「アッシュ、おはよ」

多分一人で寝るには広くてでも二人で寝るには少し狭いベッドの上。ルークは隣で寝ていた恋人の額にキスを落とす。

「今…何時だ…?」
「多分5時くらいかな?も少しゆっくりしてても平気だよ?」
「ガイが来るだろうが」

アッシュはするりとシーツを抜け出す。身に纏っているのはボクサーパンツだけだ。しかもルークのものである。アッシュはあの軍服のせいか普段は黒のビキニっぽい下着だった。本人は嫌だと言っているが。

「大丈夫だ、上手くやる」
「俺も頑張るよ」

そういって笑うルークにアッシュは啄むだけのキスをすると、床の模様とごまかしてある魔法陣の上に立った。

「それじゃ」
「あぁ」

次の瞬間、魔法陣の上にいたアッシュの姿は見当たらなかった。ローレライに聞いたユリアロードの陣はルークの部屋とグレースの部屋を繋いでいる。魔法陣が反応するのはアッシュとルークとカンタビレのみ。他の人間がそこに立っても何も起こらないので、本当に床の模様扱いだ。

「なんで退屈なんて思ったんだろ…?」

ごろりとベッドの上を転がる。そうやることが無いから退屈だったんだろうなとルークは自己完結して起き上がった。手首の細い鎖がなる。左手の薬指には銀の飾り気の無いリング。

「行ってくるね」

リングに口付けて呟く。あと二、三時間すればメイドが起こしに来るだろう。それまでにシャワーを浴びて、情事の跡を消さなきゃならない。シーツはさほど乱れてはいないが聡いものなら気付くだろう。先に部屋の換気だとルークは窓を開けて篭った匂いを外に逃がす。その後シャワーを浴び、着替えたルークは少し悩んだ。

「何もってこ?」

今日だと知ってるからアッシュは気を使ってか見えるところに痕は残していなかった。それに気付いたルークは少し恥ずかしくて。でもうれしいと感じた。

「これならいいかな?」

ルークが服に忍ばせたのは純銀のペーパーナイフ。ペーパーナイフらしい使い方はしたことがないし、これはいつも使っているペーパーナイフより重い。

「大切なものでもないしな」

父に頼んで取り寄せて貰った物だが、さほど値の張る物でもない。ルークにとっては。しかもいわくつき。その店の人間も早く売り払いたかったらしく、言い値で買えたりした。

『ルーク、用意は良い?』

頭の中でローレライの、カンタビレの声がする。

「平気、いつでもこいって感じ」
「ルーク様、おはようございます」

外からメイドの声がする。さぁ、ショータイムの始まりだ。ルークはやる気の無い返事をして、ヴァンのいるであろう応接間に向かった。

NEXT→バチカル・ファブレ邸庭~エンゲーブ
2007年06月20日 (Wed)
ボコボコと音を立てる赤いどろどろの水。それが熔岩と呼ばれる物だと彼はまだ知らなかった。唯、熱くて痛くて苦しくて…こんなに苦しいのに楽にはなれなかった。

「大丈夫ですか?」
「う………?」

熱いその水の上にまるで火の妖精のように彼は立っていた。否、彼の足元には足場があるようだ。その足場はとても冷たい。

「苦しいですよね…もう大丈夫ですよ」
「あんたは…」
「グレースです」
「グレース、ヴァンに見つかる!逃げるぞ」

グレースの立っている足場の数メートル先に赤毛の少年が立っている。彼の後ろには気絶しているようだが自分と同じ緑色が横たわっていた。その後ろにもう一人飴色の男。

「はい、行きましょうシンク」
「シン…ク?」
「貴方の名前ですよ」

グレースはシンクを抱えてとんとんと跳ねるように移動していく。グレースのいた足場はグレースが移動し始めた途端赤い水に戻っていった。

「………」
「アイシクルレインで冷やして固めたんです、痛いところがあったら言って下さいね?治しますから」

グレースが笑いながらそういう。シンクの位置からはグレースの顔が見えた。その顔はたどり着いた先にいた赤毛の少年と同じだ。

「あんたもレプリカ?」
「そうですよ」
「そっちは?」
「俺は被験者だ。シンク、暫く一人にするが平気か?」
「平気だよ、アッシュだっけ?」

シンクは赤毛の少年-アッシュ-に向かって頷いた。シンクは彼等の事を見たことがあった。特例の導師守護役として被験者イオンの側に付き添っていたから。

「あぁ。俺達が助けた事は秘密にしろ」
「なんでさ」
「直ぐにわかる…ヴァンと話しが終わった頃に迎えに行く」

アッシュはシンクを横たえてぽつりと譜を唱えた。譜術を使えない者でも歌える子守歌のような物だ。シンクの意識はそこで途絶えた。

「アッシュ、この子たちどうする?」
「漆黒の翼に預ければいいだろう。カンタビレが」
「俺が?」
「どうせ任務とか嘘ついてここにいるんだ。それに俺が今あいつらと顔を合わせるのはまずい」

シンク以外のレプリカイオンを見ながら三人は思案する。ここにはフローリアンは居なかった。おそらくモースが予備として軟禁でもしているのだろう。

「そういう事か、ならいいよ。アッシュ、ルークも早く行ったほうがいいもうじきヴァンが戻ってくる」

二人は頷くとシンクをなるべく熔岩から遠ざけて、そこを後にした。

……………………………………………………

「アッシュ、グレース。今日付けでお前達を導師守護役から解任する」

ヴァンに呼ばれ、ヴァンの執務室に訪れた二人は、ヴァンの言葉にいよいよかと解らないように息を飲んだ。

「ヴァン総長閣下」
「なんだ、グレース」
「私を六神将から外していただけませんか」

ヴァンはグレースの要望に目を見開いた。アッシュはグレースから聞かされていたのだろう。反応は無い。

「何故?」
「私は《導師派》ですから《大詠士派》である六神将には相応しくないと、あぁ心配なさらなくても結構です。これまで通り使って頂いて結構ですから」

グレースはにっこりと笑う。どうやらリグレットに話したことはヴァンには伝わっていないようだ。それはリグレットなりの答えなのだろうと、二人は考えた。「手は組めないが、黙ってはいてやる」と。ある意味共犯のようなものだ。

「そうか、しかたあるまい。グレース」
「はい」
「開いた穴をどう埋める?」
「総長が先日連れていらしたイオン様似の少年が適任かと。六神将には無いタイプの戦闘スタイルですしね」

ヴァンはふむと考える。確かに彼は体術を得意とする戦闘スタイルだ。双剣と譜術を使うグレースの戦闘スタイルとはまた異なっている。

「ならばシンクをお前の引き継ぎとしよう」
「ありがとうございます、総長。シンクは何処に?引き継ぎの事を相談したいので」
「シンクは部屋にいるだろう」
「解りました」

グレースはヴァンに一礼するとヴァンの執務室を後にした。後にはアッシュとヴァンが残される。

「よく許したな。お前はアレを片時も離さなかっただろう?」
「グレースの望みだ。それに六神将で無くなったとしてもあいつが俺の副官なのには変わらない。ヴァン、俺もシンクの所に行く」

アッシュも一礼するとグレースの後を追った。

……………………………………………………

「シンク、居ますか?」
「いるよ、入ってくれば?」

中からシンクの声がしたので、グレースは追い掛けてきたアッシュと共に、シンクの部屋に入った。

「あんたは…グレース」
「お久しぶりですね、シンク」
「そうだね、どうしたのさ急に。僕が話しかけた時も知らないふりしてたくせに」

少し拗ねているのか、シンクは顔を俯かせている。

「六神将の引き継ぎの話ししにきたのと」

グレースは付けていた仮面を外して、シンクに付けた。

「なに?」
「導師と同じ顔曝して歩く訳にはいかねぇだろうが、訓練以外の時は外出してねぇだろ」
「顔を隠せってこと?」
「違いますよ、もっと外に出ましょうって事です」

グレースの顔は見れば見る程アッシュと同じだった。それを見たシンクはぽつりと呟く。

「迷ってる、ヴァンの誘いにのるか」
「あんな髭の為に死ぬことないですよ」

グレースはシンクの髪を撫でて笑った。

「どうしても貴方が誰かの為に死にたいのなら私の為に死んで下さい」
「あんた、見掛けに寄らず随分横暴だね」
「それはアッシュのレプリカですから」

グレースは笑う。それにつられてシンクも笑った。

「なんであの時助けたのさ」
「私とアッシュのエゴです」

言い切ったグレースにシンクはますます笑う。

「気に入ったよあんた。ヴァンよりね」
「あんな変態と同列だとしたら寒気しますから」
「グレース、あんたに助けられた命だ。あんたにあげるよ」

シンクはグレースの髪を掴んで言う。

「そのかわり、僕より先に死んだりしたら許さない」
「解りました。ユリアに誓って」

グレースはシンクを抱きしめると何度も何度も髪を撫でた。そんなグレースをアッシュは無言で見ていたかと思えばシンクの隣に座って、シンクの髪を弄るグレースの頭を撫でていた。

「なんか、犬か猫のグルーミングみたいだ」

シンクは自分を猫可愛がりする二人に、嬉しさ半面恥ずかしさで顔を真っ赤にしていた。

NEXT→バチカル・ファブレ邸

〈更にその後〉

「いつまで触ってんのさ」
「シンクいいにおいしますね」
「いいにおいがするのはあんただよ…」

いつの間にか日は傾いていて、でもグレースはシンクを抱きしめたままだ。アッシュは飽きてきたのか、部屋に戻って取ってきた本をめくりながら紅茶を飲んでいる。

「アッシュ、私にも下さい。紅茶」
「解った。シンクはどうする」
「紅茶って何…」
「飲み物の一種だ。甘いのとストレートどっちがいい」
「甘い方」

どうやら味覚は被験者イオンとたいして変わらないようだとアッシュはその時判断したのだが…シンクの味覚は導師と違ってまともだったらしい。

「甘すぎるよ!砂糖いくついれたのさ!?」
「先に聞けばよかったな…すまない導師が好きな甘さにしてしまった」
「被験者のイオン様は砂糖30以上入れますからね…」

二人とも心なしげっそりしている。

「俺のを飲んでいろ」
「これは?」
「生クリームに混ぜる」
「美味しいですよ?アッシュのケーキ」

グレースがそういうので美味しいのだろうなとシンクは思った。なんだかんだ言って味覚はまだ子供だ。

「用意してくるから待っていろ」
「はい」

シンクの部屋から出ていくアッシュをグレースとシンクは見送る。

「アッシュはグレースに甘いんだね」
「まぁ、一応夫婦扱いされてる身ですからね…」
「は?」
「私が妻でアッシュが旦那。アリエッタが娘で、ラルゴがおじいちゃんです。シンクは息子ですかね?」
「聞かないでよ…」
「嫌ですか?」
「嫌じゃないよ」

フォミクリーで作り出されたシンクに親はいない。それはグレースも同じだ。

「母さんか…」
「グレース、手伝え」
「はい、シンク。これ持ってて下さい」

ケーキの箱と、食器をシンクに預けて、アッシュとグレースは机をずらす。遅めのティータイムは始まったばかりである。


それから月に一度、この小さいティーパーティーはシンクの部屋で行われている。

・二回目からはアリエッタも一緒です
2007年06月09日 (Sat)
「リグレット、何処に行くんです?」
「グレースか…」

リグレットは後ろから声をかけられ振り返った。立っていたのはグレースでいつも隣にいるアッシュは見当たらない。

「ユリアシティに行くが、何か用でもあるのか?」
「えぇ、ヴァンに復讐でもしようと思いましてリグレットなら総長の弱点知っていそうだなと」

リグレットは目を見開いた。グレースの言うことはつまりヴァンを裏切ると言うこと。

「閣下を裏切るつもりか」
「先に裏切ったのはヴァンですから…リグレットはもう良いんですか?復讐しなくても」

グレースは笑いながらそう言った。リグレットはそこでこの場に自分達以外の人間が居ないことに気付く。

「何のつもりだ」
「きっとティアは反対なさるでしょうね。レプリカ世界」
「何が…言いたい…」
「手を組みませんか?」

グレースはリグレットの前まで歩いていきながら問う。リグレットはじりっと一歩下がった。

「手を組む?」
「はい。私はヴァンの計画を邪魔したい。貴女はヴァンに復讐したい…利害が一致すると思うんですが」
「私が閣下を裏切るとでも?」

リグレットは自分にはもうヴァンを裏切るつもりは無く、寧ろグレースが裏切るつもりなら即刻ヴァンに報告すると言う事を目で語る。

「別に報告して下さっても構いませんよ?その時はアッシュとルークレプリカを連れて離脱しますから」
「脅す気か」
「はい。アッシュには迷惑かも知れませんが、ヴァンの計画を潰すには1番ですから」

ルークが居なくなればキムラスカは混乱する。ただ掠ったのがマルクトでなく信託の盾騎士団の軍人ともなればキムラスカの追及はダアトに向くだろう。

「何故、そこまで…」
「私の被験者を助けるためですよ」
「グレース…貴様…レプリカか?」
「はい、レプリカですよ?それがどうしました?」
「レプリカ世界を否定する理由はなんだ」
「私の被験者は近い将来…といっても五年以上は先ですが、ヴァンに殺されるんです。レプリカ世界に反対してヴァンを裏切って」

グレースは唯坦々とした口調で話す。その声に怒りと言う感情は篭っていない。あるのは哀しみだ。

「ティアも一緒に」
「何、貴様今なんと」
「ティアは辛うじて生きていましたけどね、ヴァンの手にかかる前にヴァンが討たれましたから。でもそれでは意味が無い」

グレースは望みを口にする。動揺したリグレットは咄嗟に譜銃をグレースに向かって撃った。グレースの仮面が弾き飛ばされる。グレースは無言で仮面を拾って付けた。リグレットがグレースの顔を見ることは叶わない。

「グレース…お前は預言者か?」
「いえ?これは数ある未来のひとつ。でも、この未来はたくさんの人を殺す。だから私は戻ってきた。私は死人なんですよ、リグレット」

グレースはリグレットの髪を触る。

「私は欲張りなんです。みんな助けたい…たとえ未来が違えても…私は貴女にも生きていて欲しい…ティアの為にも」
「ティアの為に?」
「はい。考えておいてくださいリグレット…期限は七年…」

グレースは笑い、踵を返して行こうとする。

「グレース、貴様は何故ティアを気にかける?」
「貴女を殺して泣くティアをもう見たくないんですよ」

リグレットはそこでティアが何らかをきっかけにヴァンの計画を知ってしまう事に気付いた。

「貴様がティアに喋ったのか?」
「その時の私は無知で愚かな傀儡人形でしたよ」
「なら」
「ティアはヴァンと貴女を慕っていますからね…僅かな違いも見逃さないんだと思いますよ」

そこで思い出したようにグレースは何処からかリボンのかかった袋を取り出す。

「ティアにあげて下さい」
「なんだこれは」
「ブウサギの縫いぐるみです。カンタビレがくれたんですが、私は男ですし、アリエッタはお友達の餌と勘違いしていたので」

グレースは苦笑していた。さっきのような悲しそうな笑い方ではない。

「ティアは私が死んだら泣いてくれるのだな…」
「優しいですからね…だからティアは貴女もヴァンも許せなかったんだと思います。許したくても」
「グレース」
「アッシュ」
「話しは済んだか?」
「はい、ではリグレット私はこれで失礼します」

グレースはアッシュに連れられてリグレットから遠ざかっていく。

「もう泣かせたくない…か」

グレースはティアが自分を殺すのだとそう言った。ならばそうなのだろう。グレースにもアッシュにもレプリカ計画の事は一切話していない。なのに知っているのはきっとグレースがレプリカだからだ。

「私も…泣かせたくはないな」

しかし手は組めない。預言を無くすという事を捨てきれはしないから。

「すまない、ティア…」

リグレットはそう呟いて、ダアトを後にした。

Next→ダアト・ザレッホ火山

『で、説得出来たのか?』
『どうだろ?でも少しは解ってくれたと思う…多分』

回線で会話しながら、イオンの私室に二人は向かっていた。リグレットの事を話す為だ。

『随分曖昧だな』
『リグレットも預言を憎んでるからそう簡単にはいかないよ。でもティアを泣かせるようなことはしないと思う』

ルークが手首を振るとちゃりと音がした。

「手首にしてるのか?」
「えぇ…私は貴方のものですから、わかりやすく」

ピシリとその場の空気が凍った。

『確信犯か?』
『アッシュに余計な虫つくのやだもん』

二人はその場の空気をものともせずイオンの私室へと歩いていくのだった。

後日、その噂を耳にしたイオンがアッシュを散々からかうのはまた別の話である。

・アッシュとルークが肉体関係持つのはまだまだ先ですが(苦笑)
2007年06月01日 (Fri)
インゴベルトの私室でインゴベルトとナタリアは向かい合って座っていた。ナタリアの乳母はナタリアから二歩下がった所で待機している。今はちょうど3時で休憩をとっていた所にナタリアが来たのだ。

「お父様、私お父様にどうしても話しておかなければならない事がありますの」
「なんだ、言ってみなさい」
「私、本当はお父様と血が繋がっていないそうなんですの」
「ナタリア様!?」

乳母はナタリアの突然の告白に驚いて思わず声を上げてしまった。この事をナタリアが知っている訳がないのだ。知っているのはバダックと己しかいないはずなのだから。

「私は本来ならこんな所で暮らせるような身分ではないのです」
「どういう事だね、場合によっては死罪も」
「承知のうえですわ…私は生まれて間もなくナタリアとして母上の手に渡りました…ナタリアは死産でしたので…」
「それで…」
「私はメリルと名付けられる予定でした…そう言われたのです…」
「誰が!?誰がナタリア様にそのような事を吹き込んだのです!?」

ナタリアの乳母はナタリアの肩を掴んで問うた。その必死の状況にインゴベルトは困惑する。

「ルークが…ルークが昔話をしてくださいましたの。昔とある国にとても愛された姫がいて、でもその姫は本当は父王と血は繋がっていないということを王に取り入った神官が話してしまったのです。王は怒り姫は一度は死刑にされそうになりましたわ…でも姫は民から愛されていた。民は王軍に立ち向かい姫は逃がされました。そして姫は出会った仲間と共に世界を救う旅にでるのです。姫は旅の途中、本当の父に会いました。でもその男は世界の敵のうちの一人だったのです…男は預言を怨んでいました。預言によって娘を奪われ娘を奪われたことによって男の妻は悲しみに暮れたまま狂い死んでしまったのです。娘は預言の通りに死産だった本物の姫の代用とされてしまった、と。男は預言に縛られた世界を壊そうとしている悪に荷担してしまいました。姫は世界を救うため、実の父を討ちました。その後世界は犠牲を伴いながらでありましたが救われましたわ…姫は父王に例え実の娘ではなくとも18年間共に過ごした時間は偽物ではない。血が繋がっていなくとも己の娘だと…そう言ってくださったそうです」
「ルーク様がそのような事を…」
「ルークはその話の最後を聞かせて下さった後、夜港に来て欲しいと言いましたわ。私はルークに言われた通りに港へ向かおうとしました…でも一人で港に行くなんて怖くて…そこにグレーの髪をした信託の盾の兵士が来て下さいましたの。どうしてもルークが抜け出せないから私の護衛をして欲しいと頼まれたそうですわ」

ナタリアはそういって少し息をついた。インゴベルトは黙ってナタリアの話しを聞いている。

「港には他に二人の信託の盾の兵士がいらっしゃいましたわ。一人は私と同じくらいの歳の少年で、もう一人はラルゴという方でした」
「ラルゴ…六神将黒獅子ラルゴか?ならば一緒にいたのは?」
「アッシュと呼ばれておりましたわ。グレーの髪の信託の盾兵はグレースと」
「鮮血のアッシュと失墜のグレース…六神将が三人も…何故バチカルに…」

インゴベルトは首を傾げた。彼等はヴァン直属の部下だ。ヴァンは今ファブレ邸でルークの剣の稽古を付けているはずである。問えば答えるだろうか?

「アッシュという方はグレースと待ち合わせをしていたそうです。ラルゴは…私の本当の父で、本名はバダックと言うそうです」
「バダック…ナタリア様、ラルゴは本当にそう名乗ったのですか?」
「えぇ…お父様、私はお父様の娘でいてもいいのでしょうか…?」

ナタリアは心配そうにインゴベルトに聞いた。インゴベルトはうーんと唸る。ルークの話した昔話は昔話にしては引っ掛かる。所々ユリアの秘預言ににているのだ。ルークはユリアの秘預言は知らないはずなのだから。ただ、戻ってきたルークは昔以上に聡かった。まるで自分がこれからどうなるのか知っているかのように。

「ルークは未来を知っているのかもしれぬな」
「お父様?」
「ナタリア、よく話してくれた。ルークの言う通りだな…血が繋がっていないと解ってもお前の事を愛おしいと感じる…お前は間違いなく私の娘だ」

ナタリアは熱くなる目頭を押さえてインゴベルトに抱き着いた。

「私、本当に幸せものですわ。だって私には素敵なお父様が二人もいるんですもの」
「ナタリア…」

その時コンコンと窓が叩かれた。そこにいたのはグレースだった。緩く編まれた三つ編みが風に靡いている。

「ナタリア様、お決まりになりましたか?」

グレースは口元だけでにこやかに笑っている。仮面に隠れて表情はあまり解らないのだが。

「グレース…」
「今日でバチカルでの調べ物が終わってしまったのでご報告をと思いまして…ラルゴと私はダアトへ帰らなければならないので」

グレースは最後にもう一度会わないかと聞いているのだ。おそらくナタリアとインゴベルトの会話は聞いていたのだろう。なんだかとても嬉しそうだった。

「お父様…」
「会ってきなさい、ナタリア。出来れば今度は城に尋ねて来るようにとも」
「?」
「私も話がしてみたいのだよ」

インゴベルトは笑ってナタリアの髪を撫でた。ナタリアはインゴベルトに満面の笑みを浮かべると、グレースの手をとってインゴベルトの私室を後にした。

後日、インゴベルトに呼ばれ城を訪れたラルゴはインゴベルトとしっかり話し、幸せそうなナタリアを優しく見守ると言うことで一致した。未来は少しずつ変わっているようだ。

Next→ダアト

〈ファブレ邸調理場〉

「ルーク、何故抜けてこられなかったのです?港に来いと言ったのは貴方でしょう」
「だから、警備が何故か厳しかったんだっつーの!なんか最近不審者がこの辺うろついてるって」

喋りながらルークの手は生クリームを泡立てるのを止めない。甘いはずのクリームにルークはあまり砂糖を入れていなかった。しかもクリームは低脂肪。変な気遣いだ。

「グレースの方が余程紳士的でしたわ。女性なのに凛々しくて」
「グレースは男だぜ?」

ナタリアは苺を潰す手を止めた。これは生地に入れるものだ。

「殿方…でしたの…?では何故スカートを……」
「…ヴァン師匠の趣味。とりあえず俺は餌食になりたくない。ついでに六神将の軍服、ヴァン師匠の手縫い」

おそらくラルゴはこの事を知らない。きっと知ってしまえば拒否して六神将をやめてナタリアの近衛兵かなんかになってしまう気がする。ナタリアの顔は引き攣っていた。

「あ、ナタリア、俺がグレースと仲いいのヴァン師匠には内緒な?」
「何故ですの?」
「よくいうだろ?死人に口無しって」

ルークはそう言って笑った。


・説明マジなが過ぎ!テンポ少し悪いわ…
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